千なりという菓子がある。
名古屋の菓子司、両口屋是清が製造販売しているドラ焼きに似たものだが、カステラ風の生地の面に、瓢箪が五三の桐を囲んでいる。
チクロなど食品添加物が問題になった頃、様々な着色料も問題となった。 それまではタラコももっと鮮やかな赤色をしていた。急に色のさめた鱈子は不味そうに見えたものだった。
この時に紅餡は一旦姿を消した。替わって登場した白餡は粒を残して工夫したものだったが紅餡好きの私にはなんとも物足りなかった。
同好の士が多かったと見えて、別の着色料を使ってやがて紅餡は復活した。今でも千なりは紅餡に限る。
年末、わが国ではトランス型脂肪酸が突然話題となった。
私は丸元淑生氏の『豊かさの栄養学2・脂肪』などを読んで以来マーガリン等とは縁がない。
あの本からでも十年以上。今頃になってと思ったが、その自分も珈琲のフレッシュがトランスとは思っていなかった。家ではブラックで飲むくせに出先では必ず使っている。考えてみれば一月も保つミルクがあるわけがない。
油を水素などで結合、硬化させたトランス脂肪酸は、発明実用化からほぼ一世紀を経てその危険性が発覚した。が、それから十数年、この国では一般の話題には上らなかった。
今回はニューヨーク市の規制をうけて急にマスコミが採り上げたものらしい。それでも実際の動きはまだまだ。こうしたことに関しては、アメリカが風邪をひくと日本がくしゃみをする程度のようだ。
私たちは、給食に出てくる銀紙に包んだサイコロ型のマーガリンで育った。
添加物によって滑らかでふわふわになった食品を美味いと感じる舌を持っている。如何足掻いても、添加物・加工品抜きにわが味覚の歴史はない。
神経質になってばかりいられないが、食の現場の意識が変わっていかなければ、これからもこんな世代が増えていく。
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