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一役者の気ままな雑記。 何処へ転がりまするやら。

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想い花


 一週間ほど予想に遅れた今年の花は、突然の夏日に弾け咲いた。
日々処をかえ旅先でみる例年の桜と違い、東京にいて眺めている今年の花は、イメージしていたほど儚くもないし、幾種もの桜が時を追って花開く様は力強くさえあった。

 ひょんな巡り合わせで、児童文学者岩崎京子さんの『鯉のいる村』を久し振りに手にすることになった。この本、現在書店では手に入らぬらしく図書館に足を運んだ序でに、子供の頃には読む機会を得なかった女史の代表作『花咲か』に出会った。

 江戸晩期の植木屋職人の半生を描くこの作品は、「植源」という店に弟子入りした少年の憶え書きを手掛かりに、少年常七の成長を追って行く。憶え書きは、大人の職人が残した記録を参考にしたものだというが、作者が登場して考証を重ねながら話を進めて行く処など一寸司馬遼太郎の歴史小説を連想させる。

 命を育てることの面白さ尊さに目覚めた少年は、折からの菊人形狂騒曲を横目に、「江戸中の人に桜を見せたい」という想いを暖めはじめる。健気に生きるものたちへの慰めと共感を込めたエール。それは、疱瘡であっけなく死んだ奉公人の少女の墓に紋白蝶の大群が舞う場面の美しさ悲しさに象徴される。

 口に糊する仕事のかたわら、桜の種を集めて苗畑を作る常七の畑から“染井吉野”が生まれる。が、それは常七が計算のもとに作り出した花ではない。この件りを作者は慎重な考証と共に描く。様々な桜を集めた常七の畑から偶然の交配でソメイヨシノは生まれるのである。あたかも常七の想いがゆっくりと結晶を結んだかのように。

 “晩年を彼方此方に桜を植えてまわることに費やした常七は、その畑から出た染井吉野が江戸中どころか、四十日間掛けて日本列島を北上する桜前線となることを想像したろうか”、爽やかな読後感を残して物語は結ばれる。
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